5日目

滞在している家屋には、普段父がひとりで暮らしている。昨年度末で仕事を離れるまでは、何年もの間、週の半分をこちらで過ごしていた。

数年にわたる助走期間で、父はこちらにたくさん友人をつくった。幾人か、とても親しい友もできた。苗を探していると言えば分けてくれ、風邪をひけば様子を見にきてくれ、留守にするときは庭と畑に水を撒き、金魚に餌をやってくれる。父も事あるごとに彼らを頼りにし、お礼に果物なんか持って行ったりする。

家族は皆、驚いている。

わたしは22歳まで一緒に暮らしたけれど、わたしの知る限り父は洗濯機を触ったことがなかった。掃除機はなおさら。キッチンに立つことも稀だったし(やかんでコーヒーのための湯を沸かす程度)、ATMは今でも使えない。
休みの日は自室に籠もって、仕事か、映画か、スポーツ観戦か、読書をしていた。

人にものを教える仕事をする期間が長かったので、人は好きなんだろう。
でも、こんなに持ちつ持たれつが苦でないとは家族も知らなかった(わたしだけではないと思う)。
まさか動植物を扱えるなんて夢にも思わなかった。
家族だけれども、家族だからこそ、知らないことがたくさんある。実感している。


むかしから、夜早めに一度眠って、一度起きて、朝方まで活動してまた少し眠る、という生活をする人だった。
大学受験の頃に夜型に移行したわたしは、深夜に誰かと会話したくなって彼の部屋を訪ねたりした。

5日目、2歳半の息子が父の部屋に自ら入るようになった。
静かに家族は変容していく。
触れ合って変容していく。